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新型の睡眠導入薬(睡眠薬開発の歴史)

不眠は古くから人類を悩ませてきた症状の一つだ。古代ギリシャでは不眠に対してアヘン(麻薬)のような強力な劇薬を用いていたこともあるらしい。相当重症の不眠だったに違いない。現在、アヘンを不眠に対して使用することはないが、それ以上に古くから現在まで広く使用されている薬はアルコールだろう。

アルコールは中枢神経系全般を非特異的に抑制する薬物で、古くから麻酔薬、鎮痛薬、睡眠薬として重用されてきた。ただ非特異的抑制薬であるために、適用量と摂取速度によってさまざまな反応を示す。急速に大量摂取すれば生命維持に欠かせない呼吸中枢まで抑制されて死に至る。
適量をゆっくりとした速度で摂取した場合、快適な眠りを催すが、深い睡眠を維持できず早朝覚醒してしまうために理想の睡眠薬とは言えない。それよりも、依存性、肝機能障害の問題が大きく立ち塞がる。

近代に入り薬物合成が盛んにおこなわれるようになった。そこでまず、1800年代中半に抱水クロラールが開発された。抱水クロラールは酔っぱらわないで鎮静、催眠、抗けいれん作用が得られることから睡眠薬としても用いられたが、アルコールと同じように中枢神経全般を抑制するために大量摂取すると呼吸麻痺で死に至る。

その後1900年代にブロムワレリル尿素(ブロバリン®)が登場した。しかし、ブロムワレリル尿素もアルコールや抱水クロラールと同様に中枢神経系を全般的に抑制するので大量服用すると呼吸麻痺で死に至り、ブロムワレリル尿素による事故や自殺での死亡が相次ぎ社会問題となった。

1950年代にバルビツール酸誘導体が登場すると抱水クロラールやブロムワレリル尿素を押しのけて睡眠薬の王座に就いた。
バルビツール酸系薬物は主として中枢神経抑制系のGABA受容体に作用して鎮静作用、麻酔作用、抗けいれん作用を示す超短時間型作用の薬は静脈麻酔薬として用いられ、それより少し作用持続の長い、ペントバルビタール(ラボナ®)やアモバルビタール(イソミタール®)が睡眠薬として使われるようになった。因みに長時間作用型のフェノアルビタールは抗てんかん薬として用いられている。
バルビツール酸誘導体は主たる作用点がGABA系であるとは言え、やはりそれ以外の作用点を持って中枢神経全般を抑制するために、大量投与だと呼吸抑制が起きて死に至ることは避けられず、身近に使える安全な睡眠薬は1960年代のベンゾジアゼピン系薬物の開発を待たなければならなかった。

1955年レオ・スターンバックが脳を鎮静化するGABA系に比較的特異的に作用して促進的に働くクロルジアゼポキシドが開発された。この薬物はこれまでの薬物に比べてGABA系以外の作用が少ないために、呼吸停止に代表される致死的な事故の心配がなくなった。極めて画期的なことだった。我が国でもコントール®(武田製薬)、バランス®(アステラス製薬)が不安や緊張を緩和する抗不安薬(いわゆる精神安定剤)として商品化された。
その後1960年、クロルジアゼポキシドよりもさらに有用性の高いジアゼパムがホフマン・ラ・ロッシュによって開発されてベンゾジアゼピン系薬剤が一気に鎮静系薬物の主流となった。ジアゼパムはセルシン®(武田製薬)、ホリゾン®(アステラス製薬→丸石製薬)として広く普及して、今現在も根強く愛用されている抗不安薬である。
1960年代中半に、このベンゾジアゼピン誘導体の中で催眠作用の強いニトラゼパム(ベンザリンⓇ《塩野義製薬》、ネルボン®《第一三共》)が睡眠導入薬として販売されるに至って、バルビツール酸誘導体は睡眠薬の主役から引きずりおろされることになった。
ニトラゼパム以降、ベンゾジアゼピン骨格を持った化合物が睡眠導入薬として次から次へと売り出された。
そうした中でよい意味においても悪い意味においても脚光を浴びたのがトリアゾラム(ハルシオン®《アップジョン→ファイザー》)だった。血中濃度の半減期が1.5~5.5時間と、従来の睡眠導入薬に比べて極めて短かったので、翌朝眠気やだるさが残らない薬として重用された。世界中の航空会社がパイロットの時差ぼけ対策としてトリアゾラムを指定したほどだ。
一方、あまりにも売れすぎて安易な使い方もされたために、前向性健忘や依存性などの好ましからざる副作用もクローズアップされるようになった。かくしてトリアゾラムは一転して悪者扱いされて使用禁止する国が相次いだ。実はこういった副作用はトリアゾラムに限ったことではなくベンゾジアゼピン系薬物全般に見られるものである。

このために、1980年代からはベンゾジアゼピン骨格を持たない睡眠導入薬が開発された。ゾルピデム(マイスリー®)、ゾピクロン(アモバン®)、エスゾピクロン(ルネスタ®)などである。
しかしこういった非ベンゾジアゼピン系睡眠導入薬もベンゾジアゼピン系睡眠導入薬と同様にGABA作動薬であることに変わりはなかった。

ところがここ数年、従来の薬と全く作用機序の異なる睡眠導入薬が出てきた。メラトニン受容体作動薬とオレキシン受容体拮抗薬である。
メラトニンとは体内時計と考えられている松果体―視交叉上核で作動している神経伝達物質である。朝、日の光を浴びると松果体でメラトニンが生成され、14~16時間後に分泌されて代謝を低下させて睡眠に入るとされている。
ラメルテオン(ロゼレム®)はこのメラトニン受容体に作用して内因性のメラトニンと似た作用を及ぼすことによって自然に近い睡眠を誘う薬剤だ。自然睡眠に関与するメラトニン系機能を促進するという作用機序なので、脳を強制的に鎮静させるGABA系に作用する従来型の睡眠導入薬につきもののふらつき、前向性健忘、依存といった様々な副作用を避けることが期待される。また体内時計のリズムを調整するので、単なる不眠よりも概日リズム睡眠障害に対する治療薬として期待される。
だが、10年ほど前メラトニンそのものがサプリメントとして注目されてアメリカ旅行のお土産として大流行したことがあるが、あっという間に下火になって今ではほとんど見かけなくなった。ラメルテオンがどれだけ普及して、睡眠導入薬の中でどの位置を確保できるかはまだ分からない。

もう一つが昨年発売されたオレキシン受容体拮抗薬であるスボレキサント(ベルソムラ®)。
オレキシンとは覚醒を維持する脳内の神経伝達物質でこのオレキシン受容体が刺激されると覚醒が促される。この機能が障害される病気が有名なナルコレプシーだ。覚醒が維持できなくなるために昼間突然、発作のように眠ってしまう。
このことからオレキシン受容体を抑制する物質の睡眠導入薬への応用が研究され、開発されたのがスボレキサントだ。メラトニン作動薬と同様に従来の睡眠薬の持つ副作用がなく長期に使用できることが期待されている。
中途覚醒に対してきわめてよく奏功するとの報告があるが、本薬は発売後間もないために未だ確定した臨床効果は確立されていない。今後の知見の積み重ねに期待したい。

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